これまで世阿弥については「晩年帰洛説」や「佐渡死亡説」などが語られてきた。
それら諸説を超え、<老世阿弥にとって、その芸の極致と真髄を研ぎ澄まし、「心の花」「まことの花」を咲かせるための「能者としての旅」となったのが、佐渡配流であった>と大胆に幻視したのが本作『世阿弥最後の花』。
息男の元雅を旅で亡くし、醍醐寺楽頭職を奪われ、世阿弥観世座が没落せんとする時、追い打ちをかけるように室町大樹 から言い渡された遠島。
失意と絶望の底にありながらも、「心の花」を咲かせ続けた世阿弥の真の想いとは?
佐渡配流後、村を干魃から救うため世阿弥が死を覚悟して臨んだ「雨乞立願能」、戦に巻き込まれて辿り着いた正法寺、父観阿弥の形見である鬼神面、ただ一度きりの命を懸けた新作能「黒木」、そして、この世の万象一切の美を舞った「西行桜」……。
都からの供人である・観世座笛方六左衛門。海士の息子でありながら小鼓方で天性を見せ“世阿爺"と呼んでなつく少年・たつ丸。雑太本間家の侍から出家した了隠法師、万福寺住職の劫全和尚、逗留先となった正法寺住職峯舟禅師、村人、役人、女衆、童たち……さらには、たえず付き添いゆらめく息男・元雅の霊。
島の民との交流を通して「人間・世阿弥」の物語へと昇華させた本作。
剣道をはじめ身体性を描かせたら他の追随を一切許さぬ著者が、構想から6年、今回は、自らも能の舞いを学びながら書き切った壮大な文学にしてエンターテインメントの傑作!